Love you forever. 幻のスイーツを求めて
どこからともなく現れた長い黒髪の吸血鬼は、とある美貌の男娼に惚れ込み
その美を永遠不滅のものとするために彼の命を奪う。(2017.10.28:Love you forever)
吸血鬼は自らの血を瀕死の彼に与えた。それは新たな同族の誕生を意味する。
美貌の男娼は吸血鬼の血を受けたことであくまでも下僕の立場ではあったが、
主の寵愛によって恋人として迎え入れられた。
彼らは陽の光を浴びるとたちまち灼けて灰になってしまうため、
陽が沈み、昇るまでのわずかな夜の闇の中にしか身を置くことができない。とはいえ、
限りある生命の呪縛から逃れ永遠の存在である二人にとって”時間”という概念は
あまり意味を持たないものになっていた。
そして今宵もまたいつもと変わらぬ静かな夜が訪れるはず…だったが
黒髪の吸血鬼は恋人の異変に驚愕する…。
しんと静まり返った城内には身も凍るような冷え切った空気が立ちこめている。
もうずいぶん長い間、火の気もなく人が住んではいない場所。
ある夜、誰からも忘れ去られた廃城から獣のような咆哮がとどろいた。
それはあまりにも唐突な出来事だった。
今まで見たこともない形相で乱心する恋人の様子に吸血鬼はただ動揺するしかなかった。
手当たり次第に広間の家具や骨董品が叩きつけられ、床にはその破片が飛び散っている。
「お願いだからそんなに暴れないでくれ!怪我でもしたらどうする…」
「黙れ!ぼくは今お腹が減ってるんだ!!!どうしてここには食べ物がないんだ!
ケーキどころかパンも肉も野菜もコーヒーも紅茶もないじゃないか!!!」
どうやら彼は自分自身が不死の魔物であることを少々忘れているらしい。
吸血鬼は自我を持ち、自由の利く身体であるとはいえ人間としての命が一度尽きている
”死んだ”存在であるため、生者のように食事で生命を維持するという原理がない。
彼らが滅びから逃れるために必要なのは生あるものの血を得ることのみである。
(彼を吸血鬼として迎えてからしばらく経つというのに…まだ人間としての記憶が
残っているというのか…?)
フと目を遣ると心配通り、彼の腕や足の裏は散乱した破片に触れて切り傷を創っていた。
「…君のためだ。済まないが無理にでもおとなしくしてもらおう」
細身だが胸板の厚い長身の身体を振り乱して暴れる恋人の背後から近づき、
後ろ手に腕を拘束し抱き寄せる。
「放せえええ!僕はチョコやクッキーやようかんが食べたいんだああああ!!!」
思いの丈を本気で叫ぶ恋人の耳元でそっと呪文をささやく。
糸が切れた操り人形の如く恋人は全身の力と意識を失い主の腕の中にくずおれた。
「…やはり記憶が戻っていると?」
「ええ、多分ですけど…その通りかと。」
借りたベッドに横たわる吸血鬼の恋人の寝顔を見ながら魔女はそう答えた。
黒魔女・トイ。
最近この地にアトリエを築き、そこで日々魔法の研究に勤しむ傍ら、
身銭を稼ぐために人間やモンスターを問わず様々な相談を受けては
解決の手伝いをしているという。
(まさかヴァンパイアまでここを訪ねてくるなんて…)
「私の顔になにか?」
吸血鬼の黒い長髪と青白く繊細な顔立ちに無意識に見入っていたトイが慌てて
目をそらしながら
「それで、あなたは彼をどうしてあげたいんです?」
「…」
言葉のないまま吸血鬼は恋人のそばに少し近づき床に膝をついた。
そして恋人の静かに眠る顔を見つめながら彼の手を優しく両手で握りしめる。
「…私は…彼の望みを叶えたい。彼のために私にできることがあるなら
どんなことでもするつもりだ。」
トイは吸血鬼の後ろでそれを聞いていたが、
彼の背中からはどこか強い情念のようなものが感じ取れた。
あまりの溺愛振りに背筋が寒くなったが、トイの頭の中ではすでに
ヴァンパイアの空腹を満たすための方法が思案され始めていた。
「あなたにとって彼は単なる恋人なんてものではなくて、
もっと大事な存在みたいですね?」
「私はあの時…
私の身勝手な思いだけで彼を、私と同じ血で呪われた存在にしてしまった。」
「かつての彼の境遇がどうであれ…彼はまだ年も若かった。もっと多くの人と出会い、
幸も不幸も経験し、感情豊かに年輪を刻んでその一生を終えることもできただろう。
私は彼にあったはずの可能性を自分の欲のために断ち切った死神だ。
彼に不幸があるならそれを作ったのは間違いなく私自身なのだ…。
だから私は永遠を共に過ごす彼の不幸を少しでも軽くしてやりたいと思う。」
無口そうに見えた吸血鬼がただならない様相でとうとうと話すのに面を食らい、
呆気にとられて聞いていたトイだったが、一人の青年が人間として人間らしく
歩んでゆくかも知れなかった閉ざされた未来を想像し涙をこらえることができなかった。
吸血鬼が振り向くと床に水たまりを作るほどの涙を流す魔女の姿があった。
「…あなたの気持ちはよく分かりました。私は…あなたの愛を応援します…!」
目を真っ赤にしてあふれる涙を拭いながら懸命に話すトイを包み込むように抱いて
「ありがとう。」
と穏やかな声で答えた。
アトリエの全部の窓にこの世で一番分厚い遮光カーテンが引かれ、
出入り口には面会謝絶の看板が立てられた。
ベッドの代わりに棺桶が用意され、まだ眠ったままの恋人はそこに安置された。
いずれも陽の光を完全に遮るためである。
スイーツに飢えたヴァンパイアのために出したトイの結論は
薬草と魔法と少しの血液で疑似的なお菓子を作り、
体内での吸収を抑え血糖を上がりにくくし、
とにかく何かを食べた気分にだけさせてはどうか、というものだった。
ただし食事を摂ることは元来吸血鬼には有り得ない行為である。
それを頻繁に続けることは、恋人がいつまでも人の記憶を忘れられなくなって
しまうことにも繋がりかねない。
そこで、お菓子を与えるのは人間的に言うなら”年に一度だけ”という約束になった。
吸血鬼は満足そうにそれを快諾した。
「まずは材料を集めてもらいます。夜だからかなり探しにくいでしょうけど
恋人のためだと思って頑張って。材料が全部揃ったら調理方法を教えます。
私がいなくてもあなたが作ってあげられるようになって欲しいから。」
「分かった。暗闇は問題ないよ。職業柄、夜目はけっこう利くつもりだしね。」
材料は主に山野草やその根の部分であることがほとんどなので、それらが
自生する場所によってはひたすら土をほじくり返しての採集となる。
全身泥まみれになって背負い籠いっぱいに薬草を持ち帰ってくる姿は
魔物の中でも屈指の高貴さを誇るヴァンパイアのイメージからは遠くかけ離れていて、
トイはその様子があまりに奇妙で可笑しくて仕方がなかった。
そしてついに”幻”のスイーツは完成した。
時を同じくして棺桶で眠っていた恋人も目を覚ました。
創傷もきれいに癒えて、空腹を訴える発作も落ち着いているようだった。
奇しくもそれは人の世でハロウィンと呼ばれる日であった。
「ん~~~!おいしい!!!」
恋人は主人の吸血鬼の差し出したケーキをあーんと一口ほお張ると、
今にもほっぺたが落ちてしまいそうなほどに顏を緩ませ蕩けた顔で喜んだ。
その様子を見た吸血鬼とトイはしたり顔で微笑み合った。
「冗談だよ、魔女さんは忙しいのだから私たちばかりが迷惑を掛けられないだろう?
作り方はしっかり教えてもらったからね。これからは私が作ってあげるよ。」
焦るトイはその言葉を聞いて胸をなでおろした。
「ふーん、そっか。僕のご主人様がお世話になったんだね。ありがとう、魔女さん。」
整った顔立ちと背の高い身体には不釣り合いな、まるで子供のように無垢で朗らかな
恋人の笑顔にトイは少しドキリとした。
目の前で仲睦まじくじゃれ合う二人の様子からは吸血鬼が憂いたような不幸など
トイには少しも感じられなかった。
やがて別れの時がきた。
「では…そろそろ帰るとしようか。」
「ごちそうさまでした。」
「どういたしまして。ちょっとそこまでお見送りしましょう。」
3人がアトリエを出ると見事な満月が明るく輝いていた。
「本当に世話になったね。ありがとう。
キミがいなければ私たちは今頃どうなっていたことか。」
「僕からもありがとう。魔女さんのことは忘れないよ。」
美しい二人のヴァンパイアから感謝と熱い視線を浴びてトイは目のやり場に困った。
「い…いえ、私はあなたの依頼に応えただけですから…。それに…」
下を向いてもじもじしながら口ごもるトイだったが、やがて意を決し
長い黒髪をサラサラと夜風になびかせる吸血鬼に強いまなざしを向けて言った。
「あなたは決して、彼にとっての不幸の元凶なんかじゃありません。」
思いがけないトイの言葉に驚き吸血鬼は一瞬目を丸くしたが、
「キミは優しい子だな…。」
と目を伏せて微笑んだ。
「吸血鬼(わたし)の祝福ではかえって縁起が悪いだろうか…」
少し困惑した表情を浮かべながら幾ばくかの金貨と宝石の入った袋を手渡した。
あまりの出来事に立ったままで意識を失っているトイの前にひざまずき、吸血鬼は続ける。
「トイ…と言ったね。もし君に助けが必要なら私たちは喜んで力になるだろう。
私たちがどんなに血に飢えていたとしても、トイ君ときみの家族や友達には一切、
牙をかけないと誓うよ。ではまた会う時まで。さようなら。」
「バイバイ、トイちゃん。」
遠い意識の中でかすかに見えていたのは真っ黒なマントを翻して颯爽と去っていく吸血鬼と
大きな棺桶を背負い主の後を追う半裸の恋人の後ろ姿だった。
持っていた袋がジャララッ!と地面に落ちた音でトイは我に返る。
「あ、あれ…?」
空が紫色とオレンジのグラデーションに染まり、遠くの山の間からわずかに
金色の光が溢れ出ている。間もなく日の出だ。
先ほどまで一緒にいたはずのヴァンパイアの姿はもうどこにもない。
ひょっとして夢でも見ていたのだろうかとさえ思えたが、足元にこぼれた金貨が
これまでの出来事は決して嘘ではない何よりの証だった。
「ううっ、寒い!昼夜逆転しちゃって肌荒れしホーダイだっての!
あ~、何だかドッと疲れた…。とにかくもう今日は気が済むまで寝てようっと…。」
金貨を拾いながらトボトボと戻る途中にフと足を止めて彼らが去った方向を振り返る。
望みが叶い、とても幸せそうだった彼らの姿を思い出してトイは何気ない想いを馳せた。
あんなにも心の優しいヴァンパイアを私は彼の他に知らない。どうか…
部屋に戻るなりベッドに倒れ込むつもりだったトイはハッとして息をのんだ。
「…私のベッド、物置にしまったままだった…!!!」
―完―
あとがき
※ストーリー部分が長いため、本文をスクロールボックスに入れています。※挿絵の2枚目はトキフルトーイのぴょん吉さんが以前、ご自身の漫画で描かれた
ツリーハウスの絵を元に私が許可を得て加筆・加工させて頂いたものです。
とっても素敵でトイちゃんの住まいとしてぜひお借りしたい!と思っていました★
※人物設定や心情、世界観などはあくまで”ハロウィン限定ストーリー向け”のもの
となっておりますのでよろしくお願いします。。。
黒髪の吸血鬼の主は?吸血鬼になったのはいつ?もともと何者なのか?
恋人に一目ぼれした理由は???等々のネタもあったのですがそれらを
この中で語る機会を作れませんでした(^^;)。なのでいつか消化できたらいいなと思います。
ついカタい感じの文章になってしまうもので、読み辛かったらごめんなさい。
ボキャブラリが貧困なものですから拙い文章で大変お恥ずかしい限りですが
次回の記事の更新まで間が空きそうなのでそれまでの間お楽しみ頂けたらと思います。。。
当初挿絵の間の文章はそれぞれ3行ずつぐらいで済ますつもり…
でしたが思いのほか長文気味になってしまいました(^^;)
漫画に起こせたら良かったな…と思うのですがそれでは完成がいつになるとも
知れなくなるので(汗)ストーリーと漫画風挿絵という方法をとりました。
お急ぎの方は挿絵を追うだけでもザックリとした流れは推測できるかな?とは思います(^^)
ヴァンパイアもっちーとトイちゃんのカラー絵とのつながり

今回のストーリーは
2018.11.21:妖怪ハンター望月教授&トイちゃん×吸血鬼もっちーのクロスオーバー作品★
の記事に掲載した絵に関連づいたものでした。
本来はストーリーと絵をいっぺんにまとめたかったのですが、
文章作りが間に合わなかったんです。。。
絵のネタバレをさせて頂くとすれば…
恋人に”死”をもたらした吸血鬼は温かな光で
赤いバラを持つトイちゃんを冷たく不吉な”死”から守っています。
バラは吸血鬼の恋人を暗喩します。
彼が人間として生きていくはずだったかも知れない未来を想い
トイちゃんは涙を流しています。
なにとぞストーリーと絵を比較して
何度でも絵や物語を楽しんで頂けましたら嬉しいです。
妖怪ハンター望月教授&トイちゃん×吸血鬼もっちーのクロスオーバー作品★
大変遅ればせながら前々から頂戴していましたトキフルトーイのぴょん吉さんによる超絶素敵イラストのご紹介です★トキフルトーイ・ぴょん吉さんより妖怪ハンター×もっちー絵を頂きました★▲ | ▼きっかけは私が偶然にもトキフルトーイさんちの拍手10000回を押しまして(*^^*)嬉しくなってそれをご報告いたしましたところ、なななんと!拍手10000hit記念「妖怪ハンター 望月教授の場合」(ぴょんさんブログの7月21日の記事後方に掲載...
2018年はBLに始まりBLで終わった一年になりました(@_@;)
来年は本編のノーマルカプも進展させて参ろうかと思います。
仲良くして頂いたブロガーの皆さま。頂いたコメントと拍手。
そしてブログを訪れて下さった方々…。いつも皆様に
大変励みを頂いておりました。本当にありがとうございます。
来年も新しい目標に向かい精進してまいります。
どうか2019年も当ブログをよろしくお願いいたします。。。
★どなた様も良いお年をお迎えください★
※ブログ管理は12月28日~1月3日までお休み致します(多少前後する可能性もあります)。
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あけましておめでとうございます★
年末年始のお忙しいさ中にお立ち寄りくださった皆様、どうもありがとうございます。
拙い作品に温かいコメントを頂きまして本当にありがとうございました。
本日お返ししきれなかったコメントは7日以降から順次お返事書かせて頂きます。
大変申し訳ありませんがどうぞよろしくお願いいたします。。(2019.01.04追記)
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よろしければ応援おねがいしま~す
